アニメ・ゲーム業界に関わるようになって20年ほどになります。多くの仕事に携わりました。そんな僕が今考えていることの1つを書いておきます。
作品を後世に残したい。
クリエイターや関係者、そしてファンの皆さんと一緒に作り、盛り上げたアニメやゲーム作品を世に残したい。そう思うようになりました。
たくさんのアニメが作られ続けています。そしてたくさんのアニメが過去のものになり続けています。今はサブスクで比較的簡単に過去のアニメを観ることができるようになりました。後世に残りやすくなっています。一方でサブスクにただアニメが存在しているだけだと、往々にして「倉庫に置いてある」というのと同じ状態であります。
僕としてはもっと能動的な形で残し続けたい。
新しいアニメを作るのは非常にカロリーが高いです。お金、スタッフなどの要素もそうですし、良い企画を生んだり探したりするのも簡単ではありません。一方ですでに制作が終わり放送や配信まで至ったアニメをもう一度味わい直すことは新作を作ることと比べれば容易です。
僕は20年の間、基本は音楽を作る仕事をしてきました。アニメの音楽を作ってきました。それと並行して製作委員会にプロデューサーとして参加し、アニメの制作工程を詳しく把握するようになりました。真に作品に寄り添った音楽プロデュースをするには、音楽だけではなく絵作りにも精通する必要があります。アニメのクリエイターがいつ、どのタイミングでどんな作業をしているのか。どういうところに悩み、苦しみ、そして喜ぶのか。そういう機微を把握することが良い音楽を生み出す力になります。
アニメの宣伝についても考え、アイディアを提供してきました。音楽目線だけでなく作品のプロデューサーの1名として考え、提案し、議論を重ねてきました。
そうやって仕事をしていくと、1つのアニメが世に出るまでにいかに多くの人たちの汗が流れていくかを知ることになります。せっかく生み出したものは長く愛して欲しい、愛されて欲しい。
特に僕はご縁あってアニメスタジオのクリエイターと直接交流する機会が多くあります。彼らの創作する姿を知れば知るほど作った作品を長く世に残したい。つまり後世に残したいと思うようになりました。
今、アニメは大量生産され、大量消費される時代です。アニメ産業は数字的にはどんどん増大しています。産業が活性化するのは良いことです。ですからこの流れには否定的ではありません。着目したいのは「大量消費」の部分です。消費して終わりではなく、長く何度も味わうという文化を根付かせたい。
サブスクに置いておけば良いのでは。という結論だけでは先述したように「ただ倉庫に置いてあるだけ」という状況に近しいものがあります。能動的に味わう必要があります。
能動的に味わうとは何か。
体験することだと考えます。
アニメを再び体験し直すのです。僕はこれを「追体験」と呼びます。アニメを追体験する。それはどういうことか。サブスクやBlu-rayなどで見直すことも追体験ですが、もっと強く記憶に刻む形での追体験を提供したい。
それが、フィルムコンサートです。アニメの映像を観ながら、音楽(劇伴や歌)の生演奏を聴くのです。言い方は様々です。オーケストラコンサートと言う場合もあります。略してオケコンと言うようにもなりました。
ちなみに、フィルムコンサート、オーケストラコンサート、シネマコンサートなど色々な呼び方のコンサートがあります。広く使われるのは「オーケストラコンサート」です。しかしオーケストラコンサートにも映像を用いたものもあれば、映像無しのものもあります。一方でシネマコンサートは映画1本まるまる流しながら音楽パートを生演奏にするスタイルです。僕としてこの文章で推していきたいのは「フィルムコンサート」です。

先にも書いたように新しいアニメを作るのは容易ではありません。しかし一度作り終わったアニメであれば、映像も、そして音楽の譜面もあります。それらを組み合わせてコンサートに仕立て上げるのです。
音楽の演奏はオーケストラによる演奏もあれば、バンドによる演奏もあります。いかような形でも良いと思います。単に劇伴を演奏するだけだと、物足りません。劇伴は1クールのアニメで数十曲作られます。よほど研究していない限りは、どの劇伴がどの場面で流れていたかが分かりません。ですから、映像も必要なのです。「この場面でこの音楽流れてたな」、「そうそう、こういうドラマだったな」など、映像と音楽がセットになって追体験ができます。
映像は曲目に合わせて編集します。その曲にふさわしい場面を取捨選択して編集していくのです。この映像編集には愛情と技術が必要です。その作品をしっかり観て研究する。音楽との連動を意識して場面を選ぶ。見ていて気持ちの良い映像にする。「スタッフ、分かってるね〜!」とお客様に褒めてもらえるようにする。
生演奏と映像のセットでアニメを「追体験」することで、記憶に強く刻まれます。記憶に刻まれるというのが大切です。

死は二度訪れます。一度目は肉体的なもの。二度目は忘れられること。逆に言うなら忘却されない限りは生き続けるということです。アニメやゲームも同じです。忘却こそが死なのです。クリエイターや関係者やファンの皆さんで作り上げた作品を忘却させたくないのです。そのために僕ができることはフィルムコンサート文化をアニメ・ゲーム業界に浸透させることです。すでに多数の作品がこの形式で事業を行っています。しかしまだまだ一部の作品にしか過ぎません。大ヒットした作品だけがこの事業に挑戦しています。
なぜ大ヒットした作品だけなのでしょう。それは多くの場合、作品のフィルムコンサートはオーケストラによる演奏になるからです。当然ながら大人数が動きます。譜面の作成にもカロリーがかかります。ですから、ハイリスクになるのです。
大ヒットしないとフィルムコンサートは実施できない。そんなムードがあります。僕はそれを打破したい。どんな作品にもフィルムコンサートのチャンスがある世の中にしたい。
楽団の編成規模は自由自在にしたい。キャパが少ない会場でも黒字になるように柔軟に編成を組みたい。
譜面の作成に悩むことが無いようにしたい。誰に?どうやって?という戸惑いを減らしたい。
会場抑えで途方に暮れないようにしたい。
制作、運営を的確に適切に行いたい。
映像編集を素敵に濃く行いたい。
上記だけであれば、普通のコンサート制作会社でも出来なくないです。
しかし決定的に1つ足りないことがあります。
アニメ製作&制作、アニメ音楽に精通した人材です。製作委員会の事情に精通し、アニメスタジオの作業に精通し、アニメクリエイターの気持ちを理解し、音楽制作に精通している。そういう人材が中枢に必要です。
アニメのプロデューサー、アニメのクリエイター、音楽家と語り合える人が必要です。表層だけの理解ではなく、深層にまで理解できている人が必要です。
音楽制作会社、コンサート制作会社は数あれど、上記要素を満たしているチームはなかなか見当たりません。それが、フィルムコンサート事業への敷居を高くしている要因の1つだと思い至りました。
作品を忘却させない。追体験する。そのためにはフィルムコンサートが良い。しかしフィルムコンサート事業の敷居が高い。だから大ヒット作品しかやれない。
この状況を打破したいと思い、何年も考え、動いてきました。
そして今、ここでこうやって投稿できるくらいには整いました。
ハートカンパニーの事業の1つとして、楽団事業があります。
社内にHeartbeat Projectというオーケストラ楽団を擁しています。そしてアニメ制作&製作、音楽制作に精通した人間が陣頭指揮を取っています。
企画、会場抑え、チケット、舞台制作、アニメプロデューサーとの向き合い、音楽家との向き合い、譜面作り、グッズ作りなど、フィルムコンサートに必要な要素を全て1つのチームに内包しました。ゆえに、おそらく現状では唯一の存在になっているかと思います。
アニメのビジネスというのは、放送&配信、Blu-ray、トーク中心のイベント。ここまでは各委員会で方程式として定着しています。そこに「フィルムコンサート」も自然と加わるような文化を醸成したいのです。
海外。
フィルムコンサートは一度作れば映像、譜面、演出が生まれます。これはそのまま海外に持って行けます。映像、譜面、演出と数名のスタッフだけで渡航すれば実現できます。会場は当然現地で確保し、演奏者、指揮者は各国の現地と協働します。海外でのフィルムコンサートも大ヒット作品にしか許されないビジネスのように感じられているかもしれませんが、そんなことはありません。どのような作品でも実現できます。コストのかけ方にコツがあります。編成の組み方にもコツがあります。常に大名行列である必要はありません。

長くなりました。もっともっと語れること、お伝えできるコツや工夫はありますが、そろそろこの文章は締めます。
その音楽が演奏される限り、その作品は永遠に生き続けます。
みんなで一生懸命作った作品、みんなで愛した作品を後世に「追体験」として残していきたい。
少しでもこの考えが浸透すること祈って、この文章を投稿することにしました。
この文章を読んでフィルムコンサートに可能性を見いだしたい方が1名でも生まれてくれれば嬉しく思います。
ご興味がある方はぜひ弊社にご連絡をください。実績はこちらから。
よろしくお願いします。
2025年12月23日
株式会社ハートカンパニー
斎藤 滋