ライブレポート
『YuReeNa 1st SOLO Live! 〜ウブゴエ in TOKYO〜』
@下北沢SEED SHIP “ウブゴエ”を挙げたYuReeNaのはじまりの航海
シンガーソングライター・YuReeNa（ゆりーな）のハートカンパニーに所属して二度目となる単独ライブ、「YuReeNa 1st SOLO Live! 〜ウブゴエ〜 in Tokyo」。
2022年8月、満を辞してリリースされた数年ぶりの最新アルバム「SUPER HUG!」を提げてのワンマン。
同年9月に河口湖円形ホールで開催されたハートカンパニー主催の「音楽熱想フェス」の一演目として2公演行われた同タイトルのライブは大成功を収めた。
本公演はその追加公演である。
会場として選ばれたのは東京・下北沢SEED SHIP。
YuReeNaがインディーズ時代に何度もライブを開催してきた思い出の地。
同年7月にはアルバム「SUPER HUG!」の完成を記念してファンに向けた先行視聴会イベントもこの場所で行った。
そんな彼女の「ホーム」とも呼べる地で、再びYuReeNaの”ウブゴエ”が挙がろうとしていた。
その声を聴き逃すまいと集結した彼女のファン「スーパーフレンズ」でいっぱいに埋め尽くされたフロアは、どことない緊張感とライブハウスでのドリンクとしては珍しいマスター自慢の自家焙煎の珈琲の香りに包まれていた。
そんな中、あたたかな拍手に包まれながら真っ白なワンピースに身を包み登場したYuReeNa。ミュージックビデオやキービジュアルで履いていたのと同じスニーカーで、一歩ずつピアノに近づいていく。ピアノ椅子としてこのライブのために新たに拵えたというドラムスローンに静かに座り客席全体を優しい目で見渡すと、プレリュードの旋律を奏で、大きく息を吸い込みこのライブ初となる歌声を真っ直ぐに放った。
「拓かれた新たなる旅に 名前をひとつ刻もうか」
ライブタイトルにも選ばれた「ウブゴエ」。SEED SHIP ver.として、河口湖公演からリアレンジされたオープニングナンバーに、観客の視線は惹きつけられるように会場の中央に集まった。
「みんな、今日は最後まで同じ船の中です！」と高らかに叫び、二曲目に歌うのは「すきっぷどらいぶ」。まさに全身で弾むように音を奏でるYuReeNaの歌につられて体をスイングしているうちに、開演前の緊張感はいつの間にか吹き飛んでいた。歌声に引っ張られるのを確かに感じた。
和やかなMCで客席の笑いを誘うと、打って変わって「ギラギラタイガー」、「侍」と激しいナンバーを真剣な眼差しで力強く歌唱。
続けて、歓声の代わりにとハミングでの掛け合いの練習をすると、「スーパーフレンズ」、「愛しちゃったんだ！」と多幸感あふれるナンバーたちへ。最初はぎこちなかった客席のハミングや手拍子も、時間が経つにつれて揃い一体感を増していった。
再びMCを挟み、一曲一曲楽曲にこめた想いを語りつつ披露したのは「イエロー」、「アタシハアタシノヒーロー」、「瓦礫のダリア」の三曲。
挫折や焦り、ジェラシーからの決意や希望を歌ったナンバーの数々。歌詞に自らを重ねることで誰もが共感を覚え、励まされるであろう楽曲たちをライブの中心に連ねたことに YuReeNaからの強いメッセージを感じた。
フロアに力強くエールを放った後は、まるで客席一人一人の手を取るかのように、優しくスタンドアップを促し、「We are the POPSTAR」を披露。
演奏するYuReeNaと、立ち上がりピアノを取り囲んでクラップするオーディエンスの光景はまさしくこのライブのハイライトだったと言えよう。
再び一同を着席させると、2022年を振り返り、アルバムの最後のナンバー「雨が降る」をしっとりと歌い上げ、一礼をしてYuReeNaは会場を去った。
アンコールのクラップに応えて再び登場すると、ハートカンパニーに所属する前に作られ、YuReeNaの地元・信州であれば誰もが知っているアサヒグループのCMソング「ユメレッシャ」を元気いっぱい歌う。
締めくくりに、ファンに向けたメッセージとして事前に綴った手紙を読み上げ、特別にもう一度「ウブゴエ」を披露。ウブゴエに始まり、ウブゴエに終わった約２時間の追加公演はあたたかく幕を閉じた。
タイトル通り、聴いているうちに歌声にぎゅっと抱きしめられるような感覚を覚える、そんな力強い想いの詰まったアルバム「SUPER HUG!」。豪華作家陣とタッグを組み彩られたこのアルバムのナンバーすべてを、YuReeNaはたった一人ピアノの演奏と裸の歌声で届けた。
誰もが自らの花を精一杯咲かせたい。誰かの光になりたい。そう思いつつも、時に現実という雨風に打たれながら、皆それぞれの毎日を一生懸命生きている。そんな皆を誰一人置いていくことなく、心に付き添い、引っ張り上げてくれる伴走者のような歌とピアノが確かにそこにあった。
素顔のYuReeNaはVoicyラジオ「音楽熱想」のまま、誠実で、一生懸命で、よく笑い、とても人間らしい。接しているうちに思わず応援したくなってしまう。
一方で、いざステージに立ち会場の中心からワンマンで力強く歌を届ける姿は、実に優美で、まさに咲き誇った「ダリア」のようにしなやかで強い意志を放つ女性だった。
ライブだからこそ観られる、心の内の伝えたい想いを体の奥底から放つエネルギーに思わず息を呑んだ。
応援したいと会いに行ったつもりが、真っ直ぐ正面を見つめ、鍵盤を叩き、時に地面を思い切り踏み締め、ポニーテールを振り乱しながら懸命に音楽を届けようとする彼女の歌に、姿に、自然と視線も耳も奪われ、手招かれ、気がついた時にはいつの間にかどんと背中を押されているのだ。
河口湖、下北沢と高らかに挙げたウブゴエで仲間を引きつけ、YuReeNaはまた新たなステージへと出航した。そんな彼女の船旅はまだ始まったばかり。
「スーパーフレンズ」と名付けられた船員たちとYuReeNaをのせた船は、これから皆をどんな航海へと連れて行ってくれるのか。目が離せない。
Text by Izumi Matsuo
Photo by 新井裕加
【SETLIST】
1 ウブゴエ（SEEDSHIP Special Ver.）
2 すきっぷどらいぶ
3 ギラギラタイガー
4 侍
5 スーパーフレンズ
6 愛しちゃったんだ!
7 イエロー
8 アタシハアタシノヒーロー
9 瓦礫のダリア
10 We are the POPSTAR
11 雨が降る
Enc.1 ユメレッシャ
Enc.2 ウブゴエ（Encore Ver.）
【LINK】