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ヴァイオレット・エヴァーガーデン 記録と記憶 その4

投稿者:斎藤滋
投稿日時:2020年5月13日

その3からの続き。

 

30秒CMの歌い手を誰にするか。

色々なことを考えると、結城アイラさんがふさわしいのではないかと直感した。

 

結城さんとの縁。ランティスティスレーベルでのデビューにあたってのキッカケを作ったことがあった。新しい歌い手を探していたプロデューサーがいて、結城さんの存在を知っていた自分がいて。その両名の間を取り持った。お見合いの仲人みたいなことをしたと表現すると良いのだろうか。そういうことがあった。

 

僕が感じていた結城さんのイメージは、優しい歌声、真摯な人柄。ということだった。ヴァイオレット30秒CMを表現するには優しい声が欲しかった。優しい声の歌手はたくさんいるのだけれど、その時すぐに思い浮かんだのは結城さんの声だった。

 

すぐに結城さんに連絡を取った。

「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」という小説があること、それの30秒CMを作ること、そのための歌を作ろうとしていること。

そして、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は日本のみならず世界に向けて打ち出していきたい作品であること。だから英語で歌って欲しいこと。

 

詳細なニュアンスはうろ覚えだけど、快諾だったのは記憶している。

 
 

さて、一方で作曲について。

楽曲が集まってきた。どれも力作揃いだった。自由度高い発注をしたので幅広い曲調で集まった。

それをスタッフ間で共有をして意見交換をした。ここで初めて、スタッフ同士が感じている「ヴァイオレットの音楽像」が明らかになる。

 

多くの意見交換をして、3曲に絞ることになった。

 
 

3曲から1曲に絞るにあたり、次はアレンジ(編曲)を整えてみようということになった。

スタッフで話し合い、今回はシンプルなイメージで作ろうということになった。ピアノ伴奏のみの歌にすることに。

3曲ともデモの段階ではリズム楽器や色々な楽器で作られていたが、それをピアノ伴奏のみにする。その上で最終的に1曲に絞る。

そういう行程を踏むことになった。

伴奏をシンプルにするということはメロディの良さが正直に前に出てくるということでもある。

 

そして最後に選ばれたのが、後々の「Violet Snow」となる曲だった。作ったのは川崎里実さん。

 

編曲。

実験的に作ってみてもらったピアノオンリーの編曲が想像以上に良い形になっていた。これはこのままピアノオンリーで突き進もうということになった。

本番の編曲前の実験的な編曲だったので作曲をした川崎さんがそのままピアノオンリーVer.を作ってきてくれていた。ピアノのみだとこんな感じになりますよというくらいのもの。シンプルながらもメロディの良さが引き立つような演奏だった。本番の編曲もそのまま川崎さんに頼みたいと相談したところ、快諾いただいた。超絶技法を駆使したような演奏は求めていなくて、メロディの良さをひたすら引き出すことに徹するような演奏でお願いしたいというようなことをお伝えした。

 
 
 

さて次は作詞を進める。

作詞についてはその3でも書いたようにコンペではなく、指名で行くことにしていた。

英語も日本語も使いこなせる方。そして作品愛をしっかり持てる方。

ということで、たくさんの検討を重ねて、西田恵美さんを指名させていただいた。

 

もちろん原作を読んでもらい、今回の作詞で表現したいことを伝えた。

誰目線の歌詞にすべきなのか?という話になった。

 

特定の個人がヴァイオレットに向けて想いを綴った歌では無く、ヴァイオレットに関わった多くの人たちがヴァイオレットについて思ったであろうことを1つの歌詞にしたもの。そういうお願いをした。

なので、誰目線なのか?というと、「ヴァイオレットに関わった人全員の目線」ということになる。

それは物語中で実際にヴァイオレットに関わったキャラクターの目線でもあるし、小説を読んだ1名1名の読者の目線でもある。

 

ちなみに、目線の話を作詞家とするときに「神目線で」というお願いの仕方をすることがある。一人称でも、二人称でもなく、誰の目線でもなくて、まるで神様が天空から人々を観ているかのような目線で、という意味で使う。

 

「Violet Snow」の作詞は一見すると神目線であるように感じるかもしれないが、違う。ヴァイオレットという人に触れた1名1名の全員の目線。だから歌詞の中に多いに個人的な感情も感じられるべきなのだ。「ヴァイオレットには人を良くする力がある」のだから、ヴァイオレットと関わった人は皆、彼女に対して感謝の想いが生まれる。そういうウェットな感情も歌詞には込めたい。ヴァイオレットに対する感謝や、愛おしさや、触れたら壊れそうで放っておけない感情や、、そういう湿度の高い感情が歌詞から感じ取れるようにしたい。

ドライに「ヴァイオレットとはこういう人なのである」と解説するような歌詞にならないようにしたい。

 

「ヴァイオレットに触れた人」が「ヴァイオレットに対して感じた想い」を言葉にして、「ヴァイオレットを表現する」という歌詞。

30秒しかないが、その中でぜひ表現しきって欲しい。(今ではViolet Snowはフルサイズが存在するが当時はフルサイズ制作の予定はなく、30秒の歌だけを作るという主旨だった。)

そういう意図で歌詞の創作をお願いした。

 

西田さんに対して、最後は「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」という物語をしっかり読み込んで理解すれば自然とそういう歌詞になると思いますよ、とお伝えして小説をじっくり咀嚼してもらうことにした。

 

さて上がってきた歌詞。タイトルは「Violet Snow」。

これが素晴らしいものだった。

↑結城アイラさん弾き語りVer./歌詞の和訳も確認出来ます。

 

「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の作中で「雪」の印象はあまりないと思う。でもタイトルに雪を持ってきた。紫の雪。そんな雪は当然存在しない。でもヴァイオレットという人を雪に例えるのは素晴らしい発想だった。ヴァイオレットの純粋さを雪に例えている。凄く腑に落ちた。

 
 

作曲&編曲、作詞全てが整った。

とてもシンプルだけど美しい音楽の土台が出来上がった。

さて次は歌唱。

 

結城アイラさんに歌ってもらう。

レコーディングには西田さんにも立ち会ってもらって、英語の発音をチェックしてもらいながらレコーディングをした。

結城さん自身もしっかり準備してきてくれた。1つ1つの発音をチェックしながら、感情の込め方なども色々な工夫をしてレコーディングは完了した。

30秒の歌なので、そんなに時間はかからなかった。

 

歌のレコーディングは二回行った。

一回目にレコーディングした歌を石立さんに聞いてもらい、意見交換。もう少しこういうニュアンスで歌った方が良いのではないか、それだったらこうしたらどうか、、のように話し合いをする。それを踏まえてもう一回レコーディングとなった。

非常に微細なニュアンスを込める必要があったので、二回目のレコーディング現場には石立さんも来てもらって、その場で意見交換しながら歌を収録していくことになった。

 

そして迎えた二回目のレコーディング。

とても細やかなディレクションで歌の具合を整えていく。

石立さんの頭の中には映像と歌が既にあって、その理想系に少しでも近づけるのが大事だった。まだ誰も映像になったヴァイオレット・エヴァーガーデンを見たことがない。完成形を唯一頭の中に持っている人の導きに沿って作っていくべきなのだ。

 

結城さんは微細なこちらからのリクエストに対して細やかに対応してくれて、プロジェクトの意図もしっかり汲んで歌ってくれた。ヴァイオレット・エヴァーガーデンの優しさに満ちたイメージは結城さんの歌声と努力によって具現化したのだった。

 

そうして出来上がった30秒の映像。

緻密に描かれたタイピング風景、浮き上がる文字、泣きじゃくる少女を受け止める姿、ガラスを突き破って登場するヒロイックさ、、、ヴァイオレット・エヴァーガーデンという物語の魅力が存分に詰まった30秒の素晴らしい映像になった。

 
 

さていよいよ公開する。

この映像を「世界」に届けるために、工夫をしてみることになった。

 
 
 
その5へ続く
 
 

斎藤 滋 プロフィール
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