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ヴァイオレット・エヴァーガーデン 記録と記憶 その5

投稿者:斎藤滋
投稿日時:2020年6月2日

その4からの続き。

 

文庫CMとして作られた30秒の映像と歌。

これを世間に公開するにあたり、工夫をしてみることになった。

映像の中に「これは世界中に向けて発信するものですよ!」というメッセージを込めておく。

 
 

映像の最後に「アニメ化企画進行中」ということをいくつかの言語で書いておいたり、YouTubeの翻訳機能をONにしたりという工夫を施した。

 
 

映像と歌の素晴らしさと、この2つの工夫とで、世界から色々な声が届き始めた。

この最初の映像には今でも毎日のように新しいコメントが投稿され続けている。

 

この手応えは、チームに素晴らしい活力を与えてくれた。

 
 

そしてアニメ化は動き出した。

 
 

30秒CMの歌をどうするか?についてと同様に、今度はアニメとしての音楽をどうするか?を考え始めた。

 

ヴァイオレット・エヴァーガーデンのアニメについては、今まで以上に映像と音楽の二人三脚を多いに意識していこうというチームとしての意思があった。

 

もちろんヴァイオレットは音楽アニメというわけではない。歌って踊るわけではない。

ここでいう二人三脚とは、「魂」の部分の話だ。

 

これは非常にやりがいのある「魂」だ。音楽プロデューサーにも色々なスタイルがあり、どれも正解だ。僕のスタイルというのは、環境を整えることなのだ。具体的に目に映ることでもなく、形に残ることでもなく。でもその人が存在して色々な働きかけを周囲にしていくことで、結果的に気がついたらプロジェクトが少し良くなっている。というのが自分のやり方だと思っている。楽器が弾けたり、編曲に長けてたりしたら、そういう才能を活かして作品に具体的に貢献が出来るのだけど、残念ながら僕は音楽の技術者としてのプロ能力を全く持っていない。だから、自分が関わることでプロジェクトが少し良くなる、ということをいつも目指している。

 

アニメ化の音楽について。

OPテーマ、EDテーマも重要だが、まずは劇伴を考える。

以前も触れたが「劇伴」は「げきばん」と読む。「げきはん」と言う場合もあるようだが、僕は「GEKIBAN」派だ。

この業界に入った時、先輩に名前の由来を聞いたら「劇」の「伴奏」だから「劇伴」なのだよと教えてもらった。音楽を「伴奏」や「BGM」(background music)というのは音楽を軽んじているのではいだろうか。という意見もあったりするが、表現として分かりやすいのが一番だと思う。気持ちの上できちんと尊敬の念があれば良いと思う。

 

さて、劇伴。

劇伴を誰に担当してもらうか?というのはとても重要なことだ。

単純に良い音楽が作れるというだけの基準では選べない。

結城アイラさんに依頼した時と同じように作品愛を持ってくれる人であり、かつチームの意思を理解してくれる人でないといけない。

そしてやっぱりキーワードは「世界」ということだ。

世界中で愛される作品になったとき、もしかしたらプロモーションのために世界を飛び回ることがあるかもしれない。コンサートをやることもあるかもしれない。日本だけじゃなくて世界各国でコンサートをするかもしれない。

そんな未来まで色々妄想しながら考えていた。

 

ヴァイオレットの世界を考えると、実にヨーロッパ的なムードを感じる。じゃあヨーロッパを感じる音楽を作るべきなのだろうか。ヨーロッパな音楽って何だろうか。時代的には産業革命前後。そのころのヨーロッパで実際に親しまれていた音楽とは何だろう。

 

モーツアルト、ベートーヴェン、シューベルトなどなどだろうか。

それぞれ個性があり、作った曲も様々だから「産業革命のころの音楽」というジャンル=ヴァイオレットの音楽世界設定するのはちょっと難しそうだ。

でも1つだけ感じたのは、デジタルな音作りではなくて、クラシックな楽器を生で演奏した音楽であるべきなんだろうということだった。

 

編成は大きい方が良さそうだ。

そういう譜面を書ける人が良い。

出来れば若い世代が良い。

視野の広い人が良い。

素直な人だとさらに良い。

 

日々そんなことを考え続けていた。

そうして、とある1名に行き着いた。

 

それがEvan Call。

This is Evan Call.

 
Evanとの歴史は長いと思う。彼が日本にやってきて間もないころからの付き合いだった。

彼はバークリー音楽大学で学んだあと、日本にやってきた。2012年から日本で活動開始。その時Evanが所属していた事務所の社長から「面白い作曲家が入ったよ!」と連絡が来たのだった。Evanは「アニメ音楽」をやるために日本にやってきた。色々な音楽がやりたくて日本に来る外国人はいるかもしれないが、Evanは「アニメの音楽をやりたい」ということだった。特化していた。

Evanが当時作った音楽をいくつか聴かせてもらった。音楽がいずれも大きかった。歌モノPOPを器用に書くというよりは、大きな音楽を作る人なんだろうなという印象だった。その時聞かせてもらった音楽は生録音ではなく、打ち込みのものが多かった。でもきっと大編成の生で録音出来る環境だったら本領発揮しそうだなと感じた。何か機会を見つけて1度Evanと一緒に音楽制作がしたいと思っていた。

 

しばらく経ってから、茅原実里さんのアルバムを作ることになった。テーマパークをコンセプトとした「NEO FANTASIA」という名称のアルバム。これの最後の歌をEvanに作ってもらうことにした。

茅原実里 アルバム 「NEO FANTASIA」

 

 
「NEO FANTASIA」は1曲1曲コンセプトを決めていた。遊園地に入場した時の高揚感を表す曲。ジェットコースターに乗っている気分の曲。等など。

Evanに作ってもらうのは遊園地で1日遊んで、最後に遊園地を出て行く時の気持ちを表現する歌だ。1日とても楽しかった。もっと遊んでいたい。でも1日はもう終わってしまう。そういう遊園地の楽しさと去りゆく寂しさを表現する歌。

 

映画のエンドロールのような音楽にしたかった。歌ものだが、歌は最後にほんの少しだけ登場するくらいで良い。7割から8割くらいはインストが良い。

初めて仕事するので、ぜひ直接会って発注したいと思った。Evanとは会話が弾むだろうか。どういう性格なのだろうか。とても楽しみだ。

 

そしてEvanと初めて会う日が来た。

 

その6へ続く


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