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ヴァイオレット・エヴァーガーデン 記録と記憶 その6

投稿者:斎藤滋
投稿日時:2020年6月23日

その5からの続き。

Evanと初めて会う。作曲発注のためだ。

当時Evanが所属していた事務所のオフィスで会うことになった。

2013年9月。今から7年前。

発注するにあたって、事前にメモを作ってEvanに送っておいた。こういう曲を作って欲しいのだ、ということが書かれたメモだ。

打合せ当日、事務所に赴くと、やや緊張したようなEvanが居た。

口数はそんなに多くなかったように思う。

僕も僕でなんだか少し緊張していた気がする。

7年前だから、Evanは20代前半だったはず。

僕は37歳くらい。

僕は外国語圏の人と話す時に、なるべく短い言い回しで伝えるようにする癖がある。

短文の連続で話すようにするのだ。

外国のコンベンションでトークショウなどをするときに学んだ。通訳の方が訳す時に、あまり長い文章だと通訳するのが大変そうなのだ。短文の連続で、少しずつ伝えていった方が伝わることが多い。

自分が英語で話される時、簡単な単語で、なるべく短い文章で話してくれた方が理解しやすい。それと同じだと思う。

ということで、Evanにもそういう感じで会話を積み重ねた。

Evanは、今でもそうなのだが、発注ミーティングの時は基本はじっくりひたすら聞き役に徹する。そして質問の数は多くない。

僕としてはたくさん質問してくれた方がお互いに楽曲への理解が深まる気がするので安心する。

確かこのときも、Evanからは質問はほとんど無かった。事前に送ったメモと当日の説明でほぼ全て理解できたということだった。

きっと色々な質問が出てくるのかなと思っていたので、意外だった。

今思えば曲への理解を深め合いたいという以上に、Evanとたくさん話をしてみたかったのだと思う。興味津々だったのだ。

外国から日本に「アニメの音楽」を作るためにやってきたのだ。

並大抵の覚悟ではないだろう。

どうして「アニメ音楽」にこだわっているのか、何がきっかけだったのか、ご両親はどういう気持ちで応援しているのか、どんな音楽を聴いて育ったのか、好きなアーティストは誰か、映画は何が好きか、、、などなど、知りたいことは山ほどあった。

クリエイターと仕事をするにあたっては、クリエイターがどういう背景を持っているかを1つでも多く知っておく方が良い。相手へのリスペクトに繋がるし、何かお願いやディレクションをするときに、少しでも良い伝え方が出来る。

相手の文化を知りたいということだ。

特に、外国で生まれ育った作曲家に発注するのは初めての経験だったので、なおさらだ。文化の違いは必ずある。相手の文化を知った上で仕事をした方が良いのだ。違いは存在して当然だし、存在して良いのだ。

逆に、僕のこともEvanにたくさん知ってもらった方がEvanも仕事がしやすいだろう。

などなど考えていたので、たくさんのコミュニケーションを積み重ねたいと思っていた。

1回の打合せで重ねられるコミュニケーションは少量だ。まずは伝えるべきことは伝えた。

Evanも理解したと言った。

この先は実際に音楽を通じてやりとりした方が良さそうだ。

10日後くらいにデモとテキストのメッセージが送られてきた。

メモは日本語だ。とても分かりやすい日本語で書かれていた。

こちらの意図をしっかり汲み取ったデモだった。

この曲に込めたい心情的な側面もしっかり汲み取ってくれているのには驚いた。

リテイクすることなく、そのまま採用させてもらったのだった。

その曲が「Neverending Dream」という歌だ。

「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の劇伴にも通ずるセンスが散りばめられているのを感じる。

この曲のスタジオワークの時、Evanと色々な会話をした。どうしてアニメ音楽を選んだのか?ということを聞いたことがあった。

自分は色々な音楽を作りたい。実写だと現実にある世界しか描けないけど、アニメはどんな世界も生み出せる。だからアニメの世界で音楽を作りたいと思った。

これがEvanがアニメの世界を選んだ理由だった。

「アニメはどんな世界も生み出せる」=「色々な音楽を作ることが出来る」という考え方にとても感動した。

素晴らしいなと思った。

次にEvanと一緒に仕事をしたのは、Faylan(当時の表記は「飛蘭」)のシングル「優しさの蕾」の編曲だった。バラードだ。弦と木管を美しく重ねている編曲になっている。Evanの個性として、木管の使い方の上手さがあると思う。

優しさの蕾 Faylan – Garo Makai No Hana .

そしていくつかのアニメ劇伴でも一緒に仕事をした。

歌モノの編曲も何曲かやってもらっていた。

Evanの歌が上手いということを知ってからは、コーラスをお願いすることもあった。劇中で登場するロック曲のボーカルをお願いしたこともあった。

非常に歌が上手い。初めて聞いた時は予想以上に上手くてびっくりした。

初めてEvanと劇伴を作った時の話。2014年。

Evanは個性をふんだんに出してきた。発注内容と少し異なる音楽になったものがいくつかあった。その時の音響監督はそれを楽しんでいた。

2回目、Evanと劇伴を作った時。2017年。

それもまた同じ音響監督だった。

その劇伴発注打合せの時、「Evanは言うことを聞かないからな(笑)」とその音響監督は笑いながら発注していた。

Evanは自分なりの解釈をふんだんに盛り込んだ音楽を作ってくる。どんな音楽が生まれるのか楽しみだ。そしてそれは音楽的には素晴らしいものだからEvanは自由に作れば良いぞ。という気持ちが内包されてるなと。Evanの才能を認めているんだなと僕は理解した。

発注内容と生み出された実際の音楽を比べてみると、それは良く分かった。その音響監督はそれをとても喜んでいた。

その音響監督こそ、その数年後ヴァイオレット・エヴァーガーデンの音響監督をする鶴岡さんなのだった。

Evanとの交流はとても刺激的だった。生まれる音楽のどれを聞いても、Evanにしか生み出せないものだなといつも感じていた。そして僕はEvanの作る音楽がとても好きだった。

Evanはとてもフレンドリーだったので、どんどん仲良くなった。

家族の話も聞かせてもらったり、実家の話も聞かせてもらったりした。

あるとき、Evanの家族が日本に来るというので、じゃあ一緒にご飯を食べようということになった。Evan、Evanの家族、僕、僕の妻。という不思議な組み合わせだった。

せっかく日本に来て食事するんだから、いかにも日本だぞみたいな雰囲気を楽しめるお店にしたかった。僕が外国旅行をしたら、やっぱりその国の文化を感じられるお店でご飯を食べたい。きっとEvanの家族もそう思うに違いない。

ということで、西麻布の権八を選んだ。

そういうコミュニケーションの積み重ねがあり、Evanとは音楽的にも人間的にも信頼関係が築けていたのだった。

「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の劇伴を誰にお願いするか?ということを考えた時に、Evanが適任だろうと思ったのはこういう歴史があったからこそだった。

Evanが最初に作ったヴァイオレットの音楽は、CMの音楽だった。

「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」 Violet Evergarden CM 第2弾



原作の文庫本の「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」のCM第2弾ということで作られたこの映像。これの音楽がEvanが作った初ヴァイオレット音楽であった。

ちなみにこのCMからヴァイオレットの声として石川由依さんが参加している。

このCMの音楽を聴いてもらうと分かるのだが、その後アニメの劇伴にも何度も登場する印象的なフレーズがすでに入っている。脈々と繋がっている。

それと、ここで1つ書いておきたい。タイプライターの音を楽器として活用したのは、Evanのアイディアだった。「粋」だ。なんて「粋」なんだと感動した。こういう粋なアイディアは凄く嬉しい。ヴァイオレットという作品にとってタイプライターがどれだけ重要なもので意味深いものであるかを理解してるからこその発想だ。こういう愛のある発想は本当に刺激的なのだ。

タイプライターの音を楽器で使ってきたのを聞いて、(まだシリーズ本編の作業をしてないにも関わらず)僕はEvanなら安心してヴァイオレットの音楽を託せると確信した。

少しでも良い劇伴が生まれる環境を作りたい。

スタッフ陣との交流を増やしたいと思っていた。僕がEvanと仲良くなったように、ヴァイオレットに関わるスタッフの皆さんとも仲良くなれるはず。

そうすることで、お互いの意見交換もしやすくなるだろう。

では劇伴作家とアニメのスタッフ陣の交流をどう用意するのが良いか。普通に制作をするだけだと、劇伴メニュー打合せ、音響ダビングくらいしか劇伴作家とスタッフが交流する場所がない。

アフレコに毎回来てもらうという手もなくはないが、毎回アフレコに来る時間が割けないことも多い。では食事会をセッティングするか。悪くないがもっと濃い共通体験をした方が良い。

アニメの制作工程の中で、ロケハンというものが行われる時がある。その作品の舞台となる場所を見に行く作業だ。実際に存在する街である場合もあるし、描こうとしている世界に近いイメージを持ってる場所の場合もある。

ヴァイオレット・エヴァーガーデンでもロケハンは行われた。これはまたとない機会だと感じたので、Evanにも同行してもらうことにした。監督、プロデューサー、各セクションのスタッフと一緒に数日間行動する。同じモノを見て、同じ目標に向かって考える。そして語り合う。濃密な時間だし、「作品を作るため」という共通の目標を持って行動するから共通言語が増えていく。

食事だって一緒にするわけだから、色々な話をたくさんすることが出来る。そういうことを通じて、双方の人となりが理解出来るようになる。

この数日間はとても良いものだった。

コミュニケーションが深まった以上に、ヴァイオレット世界がどんな風景のものを土台にするのかを生で体験できたことは後々生み出される劇伴に大きな影響を与えた。Evan自身もロケハンに同行したおかげでイメージが膨らんだと言っていた。ヴァイオレットの劇伴が映像と圧倒的な一体感を醸し出しているのは、きっとあのロケハンの効果もあったと思う。

そうやって積み重ねられた共通体験を経て、劇伴は作られた。

鶴岡音響監督とEvanの共同作業も、もう何度目かだから息は合っている。どういう発注をしたらEvanがどういう創作をするかを理解できているんだなと思える劇伴メニューであり、発注打合せだった。

劇伴の録音は大編成とした。シリーズの時は国内で録音をした。(外伝以降は海外録音も実施。)都内近郊で大編成が録音出来るスタジオは多くないが、その中でも一番大きいとされているスタジオで行った。

ミュージシャンは選りすぐりのスタジオミュージシャンたちだ。

初めて出会った時に、いつか大編成の環境でEvanに創作をしてもらいたいと思っていたことがようやく実現した。

 

素晴らしい旋律はもちろん、音の積み重なり方、鳴り方なども含めてその時のEvanの全力が詰まっていたと思う。録音現場で僕はひたすら見守ることにしていた。集中力も熱量も圧倒的なものがあった。そして何よりもEvanは楽しそうだった。

産みの苦しみはもちろんあるのだけど、録音現場の彼は緊張感がありながらもとても楽しそうにしていた。

 
 
 
こういう目に見えない想いは必ず創作のレベルを上げる。

「気持ちを込める」というのは創作物においてとても大事なことだ。

料理だってそうだ。気持ちを込めた料理とそうじゃない料理では味が違う。プロなのだから一定以上のレベルにあるのは当然で、単に技術が優れている以上の何かを生み出すには「気持ち」「想い」をどれだけ込められるかだと思う。

プロデューサーはクリエイターが「気持ち」や「想い」を込められる環境を作るべきなのだ。

ヴァイオレット・エヴァーガーデンの劇伴には、Evanの気持ちが強く入っている。Evanからしてみればどの作品にも気持ちは込めているだろうから、ヴァイオレットだけが特別なわけではない。

でも僕は親バカだ。親が自分の子を愛して、そして自慢するのは当然なので、僕は褒めまくるのだ。

外伝の劇伴も、劇場版の劇伴も、素晴らしいものだ。両作品ともまだサウンドトラックとして発売されてないが、いずれ必ず発売される。映像とセットで楽しんでもらいたいのは第一なのだけど、音楽だけでも存分に味わい尽くして欲しい。

シリーズのサウンドトラックはもう世に出ているからいつでも聞ける。ぜひ聞いてみて欲しい。

また、聞いてもらう時は、その創作物に込められた想いも感じてくれると嬉しい。

綾戸智恵さん(とても素晴らしい歌手の方です)がラジオで言っていたこと。

・イントロは命

・それまでの生活、前に在ったこと、前に話したこと、直前の歌手のMC、、、音楽が演奏される直前までの全ての事象がイントロ

・音楽は因果応報

演奏の1音目が発せられる瞬間の直前までに起こった全てのことがイントロなのだと。その歌手の言動、人生、親の世代、時代の流れ、、などなどあらゆる事情がイントロなのだということ。

クリエイターは作った作品に全てを込めるものだけど、受け取る側は自由に受け取って良い。作品だけで感じても良いし、全てはイントロなのだということでそのクリエイターのそれまでの歴史や人生まで把握して楽しむのも良い。

ベートーヴェンの音楽は素敵だし、音楽だけ聴いても素晴らしさは味わえる。そこに加えて、「ベートーヴェンは20代後半から聴覚を失っていた」という事実を知ると、ベートーヴェンの音楽はまた違った感動をもたらす。

綾戸智恵さんが言う「イントロ」はつまりそういうことだと思う。

ヴァイオレットの劇伴はヴァイオレットのために書かれたものだから、まずはそれだけをシンプルに楽しんでもらえたらもう十分。

でも僕はやっぱり親バカなので、Evanの今までの「イントロ」もたくさん知ってもらった上で劇伴を味わってもらえたらなおさら嬉しい。

さて、アニメの音楽は劇伴だけではない。

オープニング曲、エンディング曲も必要だ。

その話はまた次回に。

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