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ヴァイオレットのピアノアルバムの話

投稿者:斎藤滋
投稿日時:2022年4月9日

ヴァイオレット・エヴァーガーデンの新しい音楽アルバムが発売されました。アルバム名は「Though Seasons Change ~Violet Evergarden Piano Memories~」です。

 

 

ヴァイオレット・エヴァーガーデンの作中に登場する色々な劇伴をピアノ1本で演奏するという企画です。

 
 

いつの世も新しい作品が作り続けられます。人間の営みである以上、それはそうであるべきです。前に進み続けることが成長です。

一方で、大切なものを永く愛し続けるということも忘れないようにしたいと思っています。好きになった作品にはずっと触れ続けていたい。この心境は誰しもが抱くものだと思っています。

 

例えば僕はスターウォーズが好きですし、バック・トゥ・ザ・フューチャーが好きです。ジェダイの復讐(今はジェダイの帰還と言いますね)で終わったと思っていたスターウォーズ。それから数年がたったら、なんと新しいスターウォーズが作られるという。ダースベイダーが誕生するまでの歴史を描くのだという。この時の僕の心境は「ああ、またスターウォーズに触れることができる」ということでした。そしてエピソード1、2、3が作られました。これで本当におしまい。ということでした。

しかしまた時は流れ、状況は変化しました。エピソード7、8、9が作られるという話が。これだまたスターウォーズに触れ続けることができるんだという喜び。そして今度はマンダロリアンが、、、と続いています。

 

僕はこれを「嬉しいこと」と捉えてます。

 
 

スターウォーズのお話しはさておき。

つまり何が言いたいかというと、好きになった作品世界には永く触れ続けていたいのです。スターウォーズのようにその世界の色々なお話しを作り続けるというやり方もあります。

一方で、新作は作られることは無いけれど、音楽を新しく作るというやり方もあります。

 
 

僕はドラゴンクエストが好きです。3とか4のころ。ドラクエの名曲が色々なアレンジで世に出ていました。ファミコンの3和音+1ノイズでしか鳴っていなかった音楽が壮大なオーケストラになる。音楽は形を変えられるんだという発見。そして次は金管アレンジになり。ピアノアレンジになり。エレクトーンアレンジになり。たくさんの形で楽しませてくれました。ゲームはクリアしてしまうと終わりますが、ああやって音楽がたくさんの形に変化して続いてくれることで、ドラクエの世界に永く浸り続けることが出来ました。そうする中で、僕の中のドラクエ愛は深まっていったのです。

 

あの原体験はとても貴重な経験となりました。

 

音楽は形を変えてよい。いかようにも変化出来る。そうすることで作品の世界が脳内で生き続ける。この事実に触れることが出来て本当によかった。

 
 

さて、ヴァイオレット。TVシリーズも映画も全て完結しました。でもヴァイオレットの世界に浸りたい気持ちはまだまだあります。ヴァイオレットの世界を音楽で継続させたいと思いました。

 

ヴァイオレットの劇伴は本当にすばらしい。(劇伴というのはつまりBGMのことなんですが、アニメーションの世界では劇の伴奏ということで劇伴といいます。)ヴァイオレットの劇伴を作ったのはEvan。僕はEvanと伴走する役割でした。

僕はEvanにずっと「メロディを大事にしよう」と何度も何度も言い続けました。Evanは大変に純粋な音楽家なのでメロディを強く鍛え上げてくれました。Evanが作った劇伴は歌うことができる劇伴です。ヴァイオレットの劇伴は口ずさめます。これは強い。劇伴において、口ずさめるって凄いことです。旋律を覚えることができる。それほど印象的であるということ。また、覚えてしまいたくなるような魅力的な旋律であること。

 

Evan Call

 

Evanが作ったヴァイオレットの劇伴は大変に強度があります。この強度があると、色々なアレンジにしても良さが失われません。料理で言うと、大元の素材が大変にすばらしいからどんな調理方法にしても美味しくなる、というのと似ています。

 

素材がすばらしいのでシンプルに調理して食べたら素材の味が凄く分かります。オリジナルは大編成のオーケストラですから、つまりたくさんの調味料や技法をもって美味しく仕上げたものです。それに対してピアノアルバムというのは、調味料の使用は最低限にしてとにかく素材の味をしっかり引き出す、ということです。

 
 

ピアノのアレンジは酒井さんが担当してくれました。オーケストラで聞こえてくる印象的な箇所をしっかり汲み取ってピアノに落とし込んでます。ピアノアレンジになったからなんかつまらなくなってしまった、、ということが全くありません。聞こえてきて欲しいモノが全て盛り込まれています。お客様目線にしっかり立って編曲してくれています。そこに加えて酒井さんの編曲技術がふんだんに盛り込まれています。素材の味を活かすシンプルな調理ほど料理人の腕が必要です。酒井さんの腕はお見事だったのです。

 
 

演奏してくれたのは佐藤浩一さんです。ヴァイオレットのオリジナル劇伴のピアノも佐藤浩一さんです。その佐藤浩一さんが2日間弾きっぱなしで頑張ってくれました。本番レコーディング前の練習時間も相当かけたと言っていました。2日間「しか」ないのです。この物量を2日間で録音しきるというのは大変なこと。腕はもちろん集中力も必要です。

録音した日は寒い日でした。そしてホールでの録音ですので雑音を全て排除する必要がありました。エアコンも止めないといけませんでした。寒いと手がかじかみます。だから佐藤さんはカイロをたくさん使って身体と手を冷やさないようにしていました。寒さとの戦いもあったわけです。凄い曲数、2日間しかない、そして寒い中での演奏。それでも佐藤さんはめげずにゴールインしてくれました。

たぶん、このレコーディングは佐藤さんでなければ出来ませんでした。今までの関係値、これまでのヴァイオレット音楽の文脈からしても。

 

佐藤浩一さん

 
 

忘れてはいけないのは池田さんです。池田さんという人はEvanの所属事務所のスタッフさんです。Evanのマネージャーでもあり制作マンでもあります。池田さんは色々な音楽世界を知っている人です。

ピアノアルバムの企画を池田さんに相談したときに池田さんがすてきなアイディアをくれました。スタジオで録音するのではなくてホールで録音するというアイディア。ヴァイオレットの劇伴は「響き」を重視したものです。響きというのは残響だったり反響だったりのことです。大きなスタジオで録音すれは大きな響きが。小さな部屋で録音すれば響きは少ない。どちらが良いとか悪いではなくて、そういう選択肢があるということなんです。TVのヴァイオレットも映画のヴァイオレットも大きなスタジオで録音しました。だから奥行きがある音楽になっています。ピアノ1つだけで鳴らすのだから小さいスタジオで録音することもできます。でも、あえて広いホールで録音したほうが「ヴァイオレットぽい響き」になるね、というお話しです。「ヴァイオレットぽい」の「ぽい」を分かっているんですね。

ホールで録音するのはカロリーがたくさんかかります。でも「ぽい」を重視した我々でした。池田さんは色々なホールを探してきてくれて、足を運んで実際に響きを体感してきてくれました。そうして選ばれたのが所沢文化センターミューズのキューブホールでした。

 

 

キューブホールにたどり着いただけでも凄い努力ですが、池田さんの歩みはそこでは終わりません。次はピアノです。所沢ミューズにはアークホールという大きなホールとキューブホールという小さなホールがあります。どちらのホールにもピアノが置いてあるんですが、種類が違います。池田さんは今回の音楽にはアークホールに置いてあるピアノがふさわしいと感じました。でもアークホールのピアノをキューブホールに持っていくというのはとても大変なこと。池田さんは粘りに粘ってアークホールに何も公演が入ってない日にキューブホールを抑えました。アークホールは今日何も予定が無いからピアノをキューブホールに持っていけるという「状況」を生み出したというわけです。これにはもう僕も驚きで、ただただ感服するのみでした。

 
 

所沢といえば。録音当日に所沢に詳しいランティスレーベルの鈴木めぐみさんが「所沢の名物」を色々差し入れてくれました。鈴木めぐみさんは自身もピアノに造形が深い人なので本企画への理解も深い様子でした。

 
 
 

Evanの役割。
選曲、編曲、演奏、録音の全てに関与し、きちんと「ヴァイオレット色」になるように努めてくれました。聞いていただくと分かりますが、見事に「ヴァイオレット・エヴァーガーデンの音楽」になっています。オーケストラがピアノ1つになってもヴァイオレット色になっている。これはEvanがしっかり関わってくれたからです。

 
 

ジャケットも素晴らしいですよね。過去のヴァイオレットと今のヴァイオレットがピアノを挟んで向かい合っている。ドラマがあります。ヴァイオレットはドラマを味わう作品。このジャケットを眺めながら聞くと本アルバムは深みが出ます。聞けば聞くほどに味わい深い。

 
 
 

さて、完成した後の話。

ランティスレーベルの長尾さんが大変意欲的に宣伝活動をしてれました。各種取材、YouTubeの動画インタビューなど。作ったものをいかに世に知ってもらうか。これが本当に大事なのですが、ランティスレーベルの皆さんは本当に素敵に宣伝してくれました。長尾さんの熱がレーベル内に伝播したのだと思います。誰か1名がまずは火傷するくらい熱い熱量を持ってとりくみ、それが徐々に周囲に伝播していくというのがプロジェクトが上手く行くときの流れですね。

 

そのYouTube動画インタビューのお話。

とある公園でEvanと僕が語り合うという動画にしたいと長尾さんから提案が。Evanがたくさん語るのは良いことだと思いました。一人喋りは難しいだろうから誰かと話した方が良いとのことでした。はじめましてのインタビュアーさんがEvanと対峙するのも良いのですが、長尾さんとしてはEvanにリラックスして気楽に話して欲しいということで、僕が話し相手となりました。インタビュアーとしてではなくて、話し相手、という感じです。

 

話した内容は素敵な映像として公開されてますので、ぜひそれをご覧ください。

前編

 

後編


 
 

ここからは余談。

その動画撮影は冬のとある日でした。どういう格好が良いのか悩んだのですが、ベースは薄着な感じでジャケット羽織る。その上にダウンジャケット。という出で立ちで現場に向かいました。思っていた以上に寒かったので、これはダウンジャケットを来たまま話したいなと思ったんですね。

 

ですが、ベンチにEvanと僕が座ってみると、落ち葉の感じとか全体のムード的にダウンジャケットじゃない方が良い絵になるということが分かりました。ダウンジャケットを脱いで撮影に臨んだんです。格好付けてちょっと強がってしまいました。

 

最初の30分くらいは良かったんですが、それ以降は身体の芯から震えるほどの寒さ。本当に身体が冷えると物理的に身体が振動しますよね。ブルブル震えるというやつです。あれとの戦いでした。Evanも僕も震えているのがバレないようにしながら平常心の顔で撮影を続けました。それでも後半はもう耐えがたいほどの寒さだったのでスタッフさんが大量にカイロを買ってきてくれました。体中に貼り付けてポケットに入れてなんとか乗り切ったのでした。

 

 
 
 

長尾さんはプロモーションビデオも制作しました。綺麗な音楽だから綺麗な映像にしたいと気合いの入る長尾さん。とてもすてきなホールでの撮影となりました。長尾さんが依頼した映像制作会社のスタッフさんが見つけてきてくれました。こんなホールが存在したんだなと感動しました。その制作会社の社長は昔、長尾さんと僕と同じ会社で働いていた人なんですね。良い縁は良い作品を生み出します。

 

 

プロモーションビデオで演奏しているのは森岡姿帆さん。ヴァイオレットのオーケストラコンサートでもピアノを弾いてくれていました。そのご縁で今回の出演となりました。すばらしいパフォーマンスを披露してくれています。プロモーションビデオというのは何度も何度も撮影するものなのです。何度も何度も演奏する森岡さん。集中力高く臨んでくれていました。

 

 
 
 

企画、制作、宣伝。ピアノだけで演奏するのもオーケストラで演奏するのも、どちらも関わる人の情熱は同じです。違うのは演奏する人数だけですね。

 

こうやってスタッフの情熱を知っていただくことで、知る前よりもさらにピアノの音が素敵に聞こえるようになると良いなと思ってます。

 
 

音楽を作って世に届けるには色々な人の愛情と情熱が必要です。成果物だけではなくて、関わった人たちのことも知っていただくのは創作の文化を残していくための大切な活動だなと思っています。裏方のことは語らないのが美徳という考えもすてきですが、おおいに知ってもらうのもまた良いものです。人の記憶に残るのが文化だとするなら、ドラマも知ってもらうべきだと思っています。ヴァイオレットが手紙を届けました、という成果だけ知るよりも、どうやってその手紙が綴られたのか?のドラマも知った方が記憶に残りますよね。宣伝の手法は色々ありますが、永く世に残すための宣伝として、ドラマを伝えていくという手法は効果的だと思っています。

 
 
 

では最後に。

 

物語が終わっても音楽は続けることができる。音楽が物語を継続してくれる。それをぜひ知っていただきたいなと思っています。このピアノアルバムがそれを証明してくれていると思います。

 

ぜひ毎日のお供に、心の癒やしに、このアルバムを聴いてみてください。

 

撮影後

 


 

TVアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』ピアノアレンジアルバム
Though Seasons Change ~Violet Evergarden Piano Memories~

 

品番:LACA-9879 ~ LACA-9880
税込価格(10%):3,850円
発売日:2022年03月30日
レーベル:Lantis

 

©暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会

 


 

 

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